(8)復讐劇の結末は…

彼女の意向に従い、彼女の車の助手席に乗り
何かを話したのか、黙っていたのかさえ覚えていませんが

何軒か連れていかれたクラブや、ラウンジのようなところで
同じ扱いだったことにびっくりしました。

どの店も、ママと思われる人が入り口まで来て
彼女の顔を見て
『ごめんね〜今日はもう満席なの…』
なんて、体良く断られます。

嘘か本当かはわかりませんが
入り口まで出て来たどの女性も
わたしのことは認識していなくても
彼女のことはしっかりと認識したうえで
断っていることは、いくら世間知らずの私でも
肌で感じるほど露骨なものでした。

成就できたかどうかはわかりませんが…
彼女の『復讐』はここまでで気が済んだようです。

父は、本当に『いい男』だったと思います。

見た目は、石原裕次郎と勝新太郎を足して二で割ったような感じ(笑)

気前は良くて貫禄もあり、笑うと優しい目が印象的で
お酒は一滴も飲まず、ウーロン茶でいつまででも付き合える
穏やかで鷹揚な人でした。

はい、まさに…
絵に描いたようなファザコンだったと思います…わたくし(笑)

家族にも、とても優しく
父から可愛がられることはあっても
怒られた記憶もなく
両親の夫婦喧嘩も一度も見たことがないので
声を荒げる男性も知りません。

そんなふうに…わたしにとっては
世界で一番素晴らしい男性である父が

一夜にして、世界で一番汚らしい穢らわしい…オトコ…
と思ってしまう存在になったのです。

無理もありませんよね…

わたしはと言えば…
結婚するまでは純潔を守るのが当たり前だと信じてやまない
本当になにも知らないうら若き乙女(笑)だったのですから…

そして…
この歳になってもなかなか『女優』になれないわたしが
その時、女優になれるはずもなく

その出来事の数日後に母がわたしに問いただして来ました…
『いったいなにがあったの?』…と。

とっさの嘘さえ思い浮かばず
正直にわたしの身に起こったことを話してしまったのです。
一番話してはいけない人に…。

母は、『すべてを知っていた…』と言いました。
『あの子は賢い子だから…と思って黙っていた』…と。

『自分一人が我慢をすれば、あなたたち3人の娘は
なにもイヤな思いをすることなく
素直にすくすく育つと思ったし
それが、わたしの喜びだった…』と。

ところがこれは、いったいどういうことなの!

と、怒りの矛先ができてしまったのです。

怒りの矛先が、彼女にいくのかと思いきや
意外にも、その矛先は父に向かっていきました。

あんなオンナを選んだ父が悪い…と。

それまで
こんな理想的な家庭はない…とおもえるほど
幸せな家庭を作ってきた母にとって
堪え難い事態になったのはよくわかりました。

わたしが、なにも喋らなければよかったんだ…
と、ずいぶん自分を責めました。

生まれてこのかた感じたことのない険悪なムードを
生み出したのはわたしで
悔しい思いややりきれない思いにフタをしてまで
私たちのことを思ってしてくれた母の努力を
無にしてしまったのはわたしで

自慢の家族が台無しになっているのは
すべてわたしのせいだ…と、どれだけ責めたかわかりません。

ところが、どれだけ責めても、事態は好転しません。

わたしにできることが何かもわからず
責めても責めてもどうにもならないことがわかったわたしが

唯一、絶対に守ろうと思ったのは
妹達には、このことを知らせることはしないでおこう!
と、心に決めました。

それから数ヶ月、母は悩みに悩み…考えに考えたすえ
家を出ることを決意しました。

それを聞いて、もちろんわたしも一緒に出る!と言いました。

父の父親…わたしにとっておじいちゃん…という人は
母が嫁に来る前に他界していましたが

父の母親…わたしにとっておばあちゃんという人は
ずっと同居していましたので

母は、意を決して
彼女からすれば姑である
わたしのおばあちゃんに、そのことを言いに
おばあちゃんの部屋に一人で行きました。

しばらくのち、複雑な顔で戻ってきた母に
『おばあちゃん、なんて?』
と、おそるおそる聞くと…

『おばあさん…
「わしも連れてっておくれ」…だって。

わたしは、あの人を見送ってからじゃないと
この家は出れないみたいね…』

と、泣くに泣けない苦笑いで
なぜか、母もわたしも
近藤の家から出ることはかなわない…
という…笑うしかないチャンチャンという結末が訪れたのでした…