(19)乗り越えられない壁ってなーんだ?

電気も、ガスも、水道も切られたことはあります…。

夕暮れ時、いつものように晩ご飯の買い物をして家に帰ったら
真っ暗な部屋でテレビもつけず小学生二人が黙って座っていました。

ケンカでもして、暗い中で不穏な空気の二人なのか?
…なんて、まだまだ目の前の現実に気付いてないわたしは

『 電気もつけずに何してるの?』
なんて、彼らをいさめるような口調で言葉をかけました。

『 電気もテレビも…何にもつかん…』
という予想もしなかった言葉が返ってきて

そこで初めて現実が見え
いったい何をしてしまったんだ…と、
こんな暗くて寒い中で、子供達にどれだけ不安で寂しい思いをさせてしまったんだと
最大限に自分を責めました。

でもそこで、落ち込んでいる余裕なんてありません!

この現実を、1秒でもはやく…なんとか回避しないといけないのですから…。

すぐに夫に連絡をし、かき集めたお金で電気代を払いました。

もちろん…予約してすっかり炊けているはずだった炊飯器の中身も
準備した時と変わらないお水とお米の粒のまんまです。

晩ご飯のためにした買い物も、今夜使えることは不可能…なわけです。

この時ほど…

コンビニとはなんてありがたいものなんだ!と思ったことはありません。

急いでコンビニまで車を走らせ
おにぎりとインスタントのお味噌汁を買いました。

子供達のお腹が膨れるだけ、財布に入っているお金で買えるだけ目一杯買ったら
財布には、数枚の10円玉と一円玉しか残っていませんでした。

いえ…財布には…
なんていう生易しいものではなくて

我が家のそれが全財産…だったのです。

そんな局面に何度も遭いながらも
今もこうしてポッチャリ体型を維持したまま
のうのうと生きているのですから不思議なものですね。

お金がなければ何も買えませんが
お金がなくてもなぜかこうして生かさせてもらってきました。

どうやってその中を歩いてきたのか?
明確な答えは出てきません。

『 乗り越える 』という言葉にわずかな違和感を感じるわたしは
自らその言葉を使うことはありません。

人さまには、その言葉をよく言われますし
傍目から見たらきっとそう見えるのでしょうから

どなたかにその言葉を言われても感じる違和感はほとんどないのですが…

その道を歩かせてもらってきた…という感覚しかないのです。

大きな山を越えた…なんていう感覚より

一本の道を歩いてくる間に
少しだけ雨の量が多かったり、風が強かったり、でこぼこが多かったりした
そんな道を歩かせてもらってきた感覚なのです。
そう…
こんなことを書いていて思い出したことがあります。

この…前の見えないでこぼこの道を不安いっぱいで歩いている時

何人もの人から言われた言葉…

『 乗り越えられない壁はない 』

言ってくださった方が、わたしのことを思ってその言葉をわたしに言ってくださっているのはよくわかります。

ただ、誰もが知っているこの言葉ほど
わたしをイヤな気分にさせたものはないのかもしれません。

誤解を恐れずに正直に言うと

親切心から言ってくださる言葉だとはわかっていても
この言葉を浴びるたびに、わたしは『虫唾が走る』ような…そんな気さえしていました。

あなたが言っているその壁は
いったいどんな高さでどんな厚さがあって
…で、それをどうやって乗り越えたっていうの?

って、内心腹わたが煮えくりかえるような思いになったことも一度や二度じゃありません。

あなたは、わたしの前にどんな壁があるのかしってるの?

そして、それと同じ壁を乗り越えたことがあるの?

乗り越えた人の言葉なら、素直にありがたく聞いたかもしれませんが

どう考えても、知識としてのその言葉を放つ人の言葉は
残念ながら、わたしの耳には届きませんでした。

それなら、そんな知ったかぶりな言葉を発してくれるその時間…

わたしの流す涙に黙って寄り添ってくれた方が嬉しい…と思ったものです。
誰もが、良かれと思って『励ます』という行為をやりがちですが

わたしはその時、寄り添える人になりたい…と強く思いました。

こんな風に
その頃いったいどうやって日々をやりくりしてきたのか、ほとんど思い出せないのですが

明確に覚えている場面がいくつかはあります。
このままだと、明日のご飯はなんとか食べれたとしても
明後日はもう無理かも…

なんていうそんな夜

わたしは、意を決して夫に言うわけです。

『 明日さ…〇〇のママに使ってもらえるようにお願いの電話をするわ。
…で、少し前金で助けてもらいたいって頼んでみる。
服も、なんか貸して欲しいって言うわ…』

〇〇とは、あの『お姉ちゃん』がわたしを夜中に連れ回した
父の彼女…だというクラブやラウンジの中のひとつの店であり

父が生きている頃に家にも来たことのある…わずかに顔を知っているママではあったのです。

背に腹はかえられぬ…という状況なのです!

最後の砦です…オンナのわたしには。

お金を作るために夜のお酒の世界に行くことは、当然といえば当然であり
そこまでなぜ行かなかったのかさえ不思議なくらいです。

意を決して出したその言葉を
夫は黙って聞き、そのあともなんの言葉も発しません。

よしよし…そりゃ行ってこい…とも
行くな…とも。

彼の気持ちの想像がつかないわけではありませんから
お互いにそれ以上の言葉は発せず
明日の朝を待つことになるわけですが

不思議なことに
朝を迎えるまえに
仕事が舞い込むのです。

その頃は、現金商売をしていましたから
仕事が舞い込めば、2、3日後には現金が手に入ることは確約されています。

一度だけではありませんでした…

わたしが意を決してその言葉を言う度に
夜中の間の仕事が入りました。

ですので
〇〇のママに電話することもなかったのです。

さすがに、それが3回目には

ああ、わたしは夜の世界で働いちゃダメなのかなぁ…

ってそのことでお金を作る…という手段を諦めました(笑)
45歳を過ぎて少しだけその世界をのぞき見させてもらうまでは…。

まだまだ30代前半のお肌もピチピチしていた時ですもん…
夜の世界に行ったら…それなりにそこそこやれていたんじゃないかなぁ…なんて思うわけでございますが…(笑)